特定技能 vs 技人国ビザ(技術・人文知識・国際業務)どちらを選ぶべきか?

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深刻化する国内の人手不足を解消するため、外国人材の採用は企業の重要な選択肢となっています。しかし、日本で外国人が働くための在留資格(ビザ)は多岐にわたり、特に「特定技能」と「技術・人文知識・国際業務」(通称:技人国)は、多くの企業にとって主要な採用ルートです。

本記事では、この二つの在留資格の本質的な違い、取得要件、手続き、そして企業側から見たメリット・デメリットを徹底的に比較し、あなたの会社がどのビザを選ぶべきか、具体的な指針を提供します。

Information

※本記事では、外国人を日本へ招き入れ、新たに就労を開始するために「在留資格認定証明書交付申請」を行う場合を想定しています。

創設の目的と在留資格の位置づけ

「特定技能」「技術・人文知識・国際業務(技人国)」は、外国人材を受け入れるという点では共通していますが、その創設された背景と、外国人に求める能力水準に大きな違いがあります。

技術・人文知識・国際業務(技人国ビザ)の概要

技人国ビザは、専門的・技術的分野の人材を受け入れることを目的としています。

活動内容の範囲

  • 自然科学(理学、工学など)または人文科学(法律学、経済学、社会学など)の分野に属する技術や知識を要する業務。
  • または、外国の文化に基盤を有する思考や感受性を必要とする業務(翻訳、通訳、語学の指導、広報、宣伝、海外取引業務、デザインなど)

求められる専門性

  • この在留資格は、基本的に大卒や専門学校卒など、高度な学術的背景や特定の専門知識を持つ人材を対象としています。
  • 2015年4月、従来の「技術」と「人文知識・国際業務」が統合されました。

キャリアパス

  • この在留資格の活動を通じて、さらに高い専門性や年収要件を満たせば、「高度専門職」への移行が可能であり、将来的には永住権の取得も見込める、キャリアアップのルートと位置づけられています。
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特定技能の概要

特定技能は、国内人材の確保努力を行ってもなお人手不足が深刻な特定産業分野において、即戦力となる外国人を受け入れるために、2019年4月1日に創設されました。

活動内容の範囲

  • 「特定産業分野」に限定されています(例:介護、建設、農業、飲食料品製造業、外食業など14分野以上が定められています)
  • 「特定技能1号」は、相当程度の知識または経験を必要とする技能(特段の育成・訓練なく直ちに一定程度の業務を遂行できる水準)を要する業務に従事します。
  • 特定技能2号」は、熟練した技能(長年の実務経験等により身につけた熟達した技能で、監督者として業務を統括できる水準)を要する業務に従事します。

創設の目的

  • 生産性向上や国内人材確保の取り組みを行っても、なお人材確保が困難な産業分野の不足解消を図ることです。

資格要件と活動範囲の決定的な違い

企業が採用する外国人材がどちらのビザを取得できるかは、主に「仕事の内容」「本人の学歴・職歴・技能水準」によって決定されます。

職務内容(従事する業務)の違い

比較項目技術・人文知識・国際業務(技人国)特定技能(1号・2号)
活動分野専門知識や技術を要する事務、技術、翻訳、通訳等。特定産業分野(介護、建設、農業、外食等)に限定。
業務レベル専門性の高い、ホワイトカラー的な業務。特定分野における現場作業が中心(1号:相当程度の経験、2号:熟練した技能)。
付随的な業務専門性のない単純労働は原則不可(専門業務に付随する範囲で許容される)。主たる特定技能業務に付随的に行う業務(例:飲食料品製造の調理業務に付随する清掃、運搬など)。
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外国人材に求められる要件の違い

技人国ビザは「学歴または経験」、特定技能は「技能試験の合格」が原則的な要件となります。

技人国ビザの要件(学歴・経験重視)

申請人が従事しようとする業務に必要な技術や知識を修得していることが必要です。以下のいずれかを満たす必要があります。

  1. 学歴
    当該技術または知識に関連する科目を専攻して大学を卒業していること、またはこれと同等以上の教育を受けていること。
  2. 専門学校
    日本の専修学校の専門課程を修了し、「専門士」または「高度専門士」の称号を付与されたこと(関連科目を専攻していること)。
  3. 実務経験
    10年以上の実務経験を有すること(大学等で関連科目を専攻した期間を含む)。
  4. IT人材の特例
    情報処理に関する技術または知識を要する業務に従事しようとする場合は、法務大臣が告示で定める情報処理技術に関する試験に合格または資格を有していること(IT告示)。

特定技能1号の要件(技能・語学試験合格重視)

以下の要件をすべて満たす必要があります(ただし、技能実習2号を良好に修了した場合は、ハとニが免除されます)。

  1. イ. 18歳以上であること。
  2. ロ. 健康状態が良好であること.
  3. ハ. 従事しようとする業務に必要な相当程度の知識又は経験を必要とする技能を有していることが、試験その他の評価方法により証明されていること。
  4. ニ. 本邦での生活に必要な日本語能力(ある程度の日常会話ができ、生活に支障がない程度)及び従事しようとする業務に必要な日本語能力を有していることが、試験その他の評価方法により証明されていること(N4レベル以上が基本)
  5. 特例(技能実習2号修了者)
    技能実習2号を良好に修了しており、修得した技能が従事しようとする特定技能の業務に関連性が認められる場合、上記3.と4.の技能試験(ハ)および日本語試験(ニ)が免除されます。
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在留期間と家族帯同の制限

比較項目技術・人文知識・国際業務(技人国)特定技能1号特定技能2号
在留期間5年、3年、1年、3月(更新可能。総年数上限なし)。通算5年が上限(更新あり)3年、2年、1年、6月(更新可能。総年数上限なし)。
家族(配偶者・子)の帯同可能(家族滞在ビザ)。不可(例外規定なし)。可能(家族滞在ビザ)。
永住への道「高度専門職」経由等でありなし(5年の制限があるため)。あり(長期在留が可能で、永住申請の要件を満たしうる)。

特定技能1号は、在留できる期間が通算5年以内と厳しく制限されている点に注意が必要です。5年を超えた時点で、その後の在留は認められません。

在留資格認定証明書交付申請(COE)の手続きの違い

日本で就職するために、海外在住の外国人が申請を行う際、企業側(受入れ機関)が求められる要件や提出書類には大きな違いがあります。

企業側の責任と義務の違い

比較項目技術・人文知識・国際業務(技人国)特定技能1号
企業の義務雇用契約の締結、日本人と同等以上の報酬の支払い。法令遵守。雇用契約の締結、日本人と同等以上の報酬の支払い。1号特定技能外国人支援計画の実施(必須)。
支援計画義務なし必須。職業生活、日常生活、社会生活上の支援を全て実施しなければならない。
支援費用の負担規定なし(自由)。支援に要する費用(義務的支援に係るもの)を外国人に負担させてはならない
契約期間満了後の対応規定なし。帰国旅費を負担できない場合は、特定技能所属機関が旅費を負担し、出国が円滑になされるよう措置を講じることが必要。
報酬条件日本人が従事する場合と同等額以上の報酬。同等の業務に従事する日本人労働者の報酬と同等以上であること。外国人であることを理由に差別的取り扱いをしてはならない。
特に重要

特定技能1号の「支援計画」

特定技能1号では、企業(特定技能所属機関)が、外国人材の生活全般(住居確保、銀行口座開設、生活オリエンテーション、日本語学習支援、相談・苦情対応など)について、10項目の支援を義務的に実施しなければなりません。

この支援は、企業が自社で全て行うか、または登録支援機関にその実施の全部を委託することができます。この支援が適正に行われない場合、在留資格の取り消しや、企業が特定技能外国人を受け入れられなくなる可能性があります。

申請時の主な提出書類(COE交付申請)

比較項目技術・人文知識・国際業務(技人国)特定技能1号
申請者側の書類卒業証明書、専攻内容証明書、職歴を証する文書など(主に学歴・経歴の証明)。技能試験合格証明書、日本語試験合格証明書など(主に技能・語学能力の証明)。
企業側の書類招へい機関の概要資料、登記事項証明書、損益計算書の写し、事業内容を明らかにする資料など。特定技能所属機関の概要資料、特定技能雇用契約書の写し、報酬に関する説明書、1号特定技能外国人支援計画など。

技人国ビザでは、「学歴と業務の関連性」を証明するための文書が中心となります。一方、特定技能では、「外国人本人の技能・語学水準の証明」「受入れ企業の支援体制」を証明するための文書が中心となります。

企業から見た採用のメリット・デメリットと選択の指針

企業が外国人材の採用を検討する際、採用のしやすさ、コスト、管理負担、長期的な雇用可能性を総合的に判断する必要があります。

技人国ビザ採用のメリットとデメリット

メリット (利点)デメリット (欠点)
① 柔軟性の高さ:在留期間の更新に上限がなく、長期的な雇用が可能。① 職種が限定的:単純労働や現場作業(マニュアルワーカー的な業務)は原則として行えない。
② 企業の負担が軽い:義務的な支援やサポート計画の策定・実施が不要。管理コストを抑えられる。② 採用ハードルが高い:応募者に大卒以上の学歴または10年以上の実務経験が必須。採用できる人材が専門職に限定される。
③ 採用分野の自由度:特定の産業分野に限定されず、IT、金融、マーケティング、翻訳など幅広い専門分野で採用可能。③ 専門性と業務の関連性が必須:申請者の専攻分野と、従事させる業務内容の間に厳格な関連性が求められ、審査で不許可になるリスクがある。(大卒の場合多少柔軟な審査)
④家族帯同の可否:配偶者や子を日本に呼び寄せることが可能。④ 技能レベルの保証が薄い:学歴や職歴は問われるが、日本語能力や特定の現場技能レベルについて、統一的な試験合格が必須ではない(IT人材の特例を除く)

特定技能1号採用のメリットとデメリット

メリット (利点)デメリット (欠点)
① 現場作業の採用が可能:人手不足が深刻な特定分野(介護、建設、農業、外食など)の現場労働力として採用できる。① 雇用期間の制限:通算の在留期間が5年間が上限。その後は帰国するか、特定技能2号へ移行する必要がある。
② 技能水準の担保:採用時点で技能試験および日本語試験に合格している(または技能実習2号を良好に修了している)ため、即戦力としての技能水準が保証されている。② 企業の義務的負担が重い:外国人支援計画の実施が必須であり、住宅支援、生活ガイダンス、相談対応などの義務が生じる。自社で実施しない場合は、登録支援機関への委託費用が発生する。
③ 採用の柔軟性:応募者に大学卒業等の学歴要件が不要。技能と日本語のテスト合格が主要な要件。③ 家族帯同の不可:特定技能1号では、配偶者や子を日本に呼ぶことができない。
④ 転職のしやすさ:同一分野内での転職が認められているため、労働環境が悪化した場合などに転職を支援する必要がある。④ 採用分野の限定:特定産業分野(14分野以上)以外での採用は不可能。
【技人国ビザ解説】不許可事例から学ぶ申請戦略:外国人採用ガイド

日本での外国人採用、または日本企業への就職を目指す外国人材にとって、「技術・人文知識・国際業務(以下、技人国)」の在留資格は最も一般的な専門職ビザです。 しかし…

企業別の採用戦略と選択の指針

企業は、「採用したい業務の内容」「長期的な雇用戦略」に基づき、適切な在留資格を選択する必要があります。

技人国ビザを選ぶべき企業(「専門性」と「長期雇用」を重視する場合)

業種の例:IT企業、コンサルティング会社、総合商社、専門職事務所(法律・会計を除く)、デザイン会社、大学等の研究機関

大卒や院卒レベルの専門的な知識(システム開発、データ分析、国際マーケティング、高度な通訳・翻訳など)を必要とする業務に採用する場合、在留資格「技術・人文知識・国際業務(技人国)」が必要になります。

特に、IT人材は、一般的に技人国ビザの対象となります。関連科目を専攻した大学卒業者か、IT告示に定められた試験に合格した者であれば、取得が可能です。

メリットとしては、高度な知識を持った人材を、企業のサポート負担を抑えつつ、長期的に雇用し続けることが可能です。さらに、優秀な人材であれば「高度専門職」への移行を促し、優遇措置(家族帯同、在留期間の特例等)を享受させることができます。

注意点

現場のライン作業や、知識/学歴と関連性のない事務補助業務には採用できません。

特定技能ビザを選ぶべき企業(「現場の即戦力」と「人材不足解消」を重視する場合)

業種の例:介護施設、建設業者、飲食料品製造業者、外食チェーン、農業生産法人など

特定産業分野に該当する企業で、知識や経験を要する現場の労働力を必要とする場合や、人手不足が深刻で、即戦力として技能レベルが担保された人材を大量に確保したい場合は、在留資格「特定技能」が最も適しています。

メリットとしては、必要な技能水準を試験で保証された人材(特定技能1号)を、学歴を問わずに採用できます。特に、技能実習2号修了者であれば、試験免除の特例により、手続きがさらにスムーズになる場合があります。

注意点

雇用期間が5年までという制限があるため、長期的なキャリアプランを提供できない可能性があります。また、企業には義務的な支援計画の実施が伴うため、支援体制の整備やコスト負担(自社対応または登録支援機関への委託)を考慮する必要があります。

特定技能2号を目指すべき企業(「熟練の現場専門家」と「無期限の長期雇用」を重視する場合)

特定技能2号は、1号で定められた特定産業分野のうち、現在11分野に限定されています。

熟練した技能を必要とする業務、または現場の監督者、管理者として業務を統括できる人材を必要とする場合は、特定技能2号を目指すべきといえます。

メリットとしては、在留期間に上限がなく(3年、1年、6月で更新可能)、熟練した人材を事実上無期限で雇用し続けることができ、家族帯同も可能になります。これにより、現場のキーパーソンとして定着を促すことができます。

注意点

2号の技能水準は非常に高く、「特定技能1号」を経なくても試験に合格すれば取得可能ですが、その難易度は日本の専門的・技術的分野の在留資格(技人国等)と同等以上とされています。

在留資格選択のチェックリスト

最終的にどちらの在留資格を選ぶべきか、以下のチェックリストを参考にしてください。

質問事項該当する場合の推奨ビザ
採用したい業務は、ITや企画、デザイン、会計などの専門知識が必要ですか?技人国ビザ
採用したい業務は、介護、建設、農業などの現場の技能や経験が必要ですか?特定技能
応募者が大学を卒業しており、その専攻分野と仕事内容に関連性がありますか?技人国ビザ
応募者が技能試験に合格しており、学歴は問いませんか?特定技能
採用後に義務的な生活支援(住居、銀行口座開設など)を行う負担を避けたいですか?技人国ビザ
5年以上の長期雇用を前提としていますか?技人国ビザ または 特定技能2号
採用する外国人に家族の帯同を認めたいですか?技人国ビザ または 特定技能2号

まとめ

特定技能と技人国ビザは、いわば日本の外国人材採用における車の「二つの車輪」のようなものです。

技人国ビザは、本社や研究開発部門、高度な専門職で活躍する「頭脳」としての外国人材を受け入れるルートであり、企業に大きな裁量が与えられます。

対して特定技能ビザは、人手不足が深刻な現場や生産部門で活躍する「即戦力のエンジン」としての外国人材を確保するルートであり、外国人の保護と適正な受入れのため、企業に詳細な支援体制(義務的なメンテナンス)が求められます。

企業がどの部門で、どのようなスキルレベルの人材を、どれくらいの期間雇用したいかによって、取るべき戦略と選択すべきビザは明確に分かれるのです。

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