【企業人事向け】就労ビザ「技人国」の申請要件・審査期間を解説

企業の人事・労務ご担当者様へ
入管法務を専門とする行政書士の立場から、就労ビザ「技術・人文知識・国際業務」(以下「技人国」ビザ)の申請要件、審査の論点、および実務的な対応策について解説します。外国人材の採用を成功させ、コンプライアンスリスクを回避するための指針としてご活用ください。
なぜ今、「技人国」ビザの正確な知識が必要なのか?
我が国の経済社会の活力を維持・発展させるため、専門的・技術的分野の外国人材の受け入れは不可欠であり、政府もこれを積極的に推進する方針を掲げています。
在留資格「技術・人文知識・国際業務」は、機械工学等の技術者や通訳、デザイナー、マーケティング業務従事者など、幅広い専門職の外国人社員に該当する、最も一般的な就労資格の一つです。
在留外国人数は増加傾向にあり、特に企業等に勤務する外国人社員が該当する「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ中長期在留者数は、2018年末時点で約22.5万人と、就労を目的とする在留資格の中で大きな割合を占めています。
しかし、一度在留資格の許可を受けた後も、虚偽の申請や在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行わない場合など、法務大臣は在留資格を取り消すことができます。
不許可や取り消しは、企業の採用計画の頓挫や、その後の外国人材採用における欠格事由につながる重大なリスクです。適切な在留管理(在留資格の公正な管理)は、出入国管理行政の重要な目的の一つであり、企業側には高い専門性と正確な対応が求められます。
Part 1: 企業と外国人、それぞれに求められる基本要件
企業側が満たすべき「適格性」(安定性・継続性)
「技人国」ビザの申請では、雇用する企業(所属機関)の事業の安定性・継続性が審査されます。これは、企業が外国人材に対して長期にわたり安定的に業務を提供し、雇用契約を履行できるかを確認するためです。
審査要件として、企業が労働、社会保険および租税に関する法令の規定を遵守していることが求められます。具体的には、以下の義務の履行が重要となります。
| 企業側の満たすべき適格性 | 適格性の詳細 |
|---|---|
| 労働関係法令の遵守 | 健康保険や厚生年金保険の加入手続きや保険料の納付を適切に行っていること。 |
| 社会保険関係法令の遵守 | 健康保険や厚生年金保険の加入手続きや保険料の納付を適切に行っていること。 |
| 租税関係法令の遵守 | 国税(法人税、消費税等)および地方税(法人住民税等)を適切に納付していること。 |
これらの法令義務を履行していないことが判明した場合、在留資格変更許可申請や在留期間更新許可申請において、消極的な要素として評価され、不許可につながるリスクがあります。
特に、税金や社会保険料の納付意思があり、納付に向けた手続きを行っているものの、やむを得ない事情で期限までに納付ができない場合は、在留資格変更許可申請時に、その事情を疎明する資料を提出することが求められます。
外国人側の「学歴・実務経験」要件の詳細
外国人材が「技人国」ビザを取得するためには、従事しようとする業務に必要な専門的な技術または知識を修得していることを証明する必要があります(入管法第7条第1項第2号)。
主な証明方法は以下の通りです。
| 学歴・実務要件 | 学歴・実務経験の詳細 |
|---|---|
| 大学または同等以上の教育 | 従事しようとする技術または知識に関連する科目を専攻して大学を卒業していること、またはこれと同等以上の教育を受けていること。 |
| 日本の専修学校の専門課程修了 | 関連する科目を専攻して日本の専修学校の専門課程を修了し、かつ「専門士」または「高度専門士」の称号を付与されていること。 |
| 実務経験 | 関連する技術または知識について10年以上の実務経験を有すること(大学等で関連科目を専攻した期間を含む) |
| 情報処理技術の特例(IT業務の場合) | 情報処理に関する技術または知識を要する業務に従事する場合、法務大臣が告示で定める情報処理技術に関する試験に合格しているか、または資格を有していること。この告示は、相互認証を受けている諸外国の試験や資格の一部を対象として規定されており、国内の試験のほか、中国、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、台湾、マレーシア、タイ、モンゴル、バングラデシュ、シンガポール、韓国で実施された試験も含まれます。 |
実務上の指針
採用予定の外国人が卒業した学校の専攻科目と、日本で従事させる業務内容との関連性を明確に示す資料(卒業証明書、履修科目概要、職務経歴書など)を準備することが必須です。
Part 2: 審査の合否を分ける最重要論点
業務内容と専攻の「関連性」の判断基準
「技人国」ビザ審査において、外国人の持つ専門性と日本で行う業務の整合性は最も厳しくチェックされる点です。
申請人が学歴や実務経験を通じて修得した「自然科学または人文科学の分野に属する技術または知識」を、日本で契約に基づいて行う業務において、必須として必要としているかが問われます。(判断の原則)
実務的な解釈とリスク回避
業務の専門性の確保
従事させる業務が単純労働ではないことを証明しなければなりません。例えば、通訳、デザイナー、マーケティングなど、知識・技術を活かした業務である必要があります。単に「通訳」という職種名であっても、実態として単純な作業や接客が主である場合、不許可となる典型的な理由の一つです。
専攻と業務の具体的な関連
- 技術分野(自然科学):例えば、機械工学専攻者が機械設計や開発業務に従事する場合など、高度な技術や理系の知識が直接求められる業務が該当します
- 人文知識分野(人文科学):経済学や法律学の知識を活かしたマーケティング、会計、人事労務などが該当します。
- 国際業務分野:翻訳、通訳、語学指導、広報、宣伝、海外取引業務など、外国の文化に基盤を有する思考や感受性を必要とする業務です。この分野では、大学卒業者が翻訳、通訳または語学指導に従事する場合を除き、3年以上の実務経験が要件となります
リスク回避策
入社後に従事する業務が、形式的な専門職名であっても、実態として専門知識を必要としない「単純労働」に流用されていないかを証明するため、詳細な職務記述書や業務フロー、その専門知識の活用度を説明する資料を準備し、入管からの質問に対し矛盾なく答えられるようにしておく必要があります。
「日本人と同等以上の報酬」の厳格な判断基準
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の審査においては、申請人が従事しようとする業務について、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」が上陸許可基準(在留資格認定証明書交付申請)および在留資格変更許可申請において厳格に審査されます。
在留審査において、報酬が日本人と同等額以上であると認められない場合、在留資格の不交付または不許可理由となります。
実務的な比較対象の設定
比較の原則
外国人であることを理由として、報酬の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的な取扱いをしてはなりません。全ての就労資格において、外国人に対する報酬の額が、日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であることが明確に義務付けられています。
同等性の証明
申請人が受ける報酬額が、日本人が同等の業務に従事する場合に受ける報酬と同等額以上であることを証明する必要があります。
「報酬」の定義
申請人が受ける報酬額が、日本人が同等の業務に従事する場合に受ける報酬と同等額以上であることを証明する必要があります。
リスク回避策
比較対象となる日本人社員の賃金台帳や賃金規程を用意し、比較の根拠を明確にした資料を提出することが重要です。
このように、報酬の基準はすべての就労資格に共通する「均等待遇」の原則に基づき、厳格に適用されることを強調すべきです。
Part 3: 採用計画から許可までの実務フロー
在留資格認定証明書交付申請(CoE)の流れ
新規の外国人材採用において、海外在住の外国人を招へいする場合や、国内に「短期滞在」などの在留資格で滞在する外国人を雇用する場合、原則として在留資格認定証明書交付申請(CoE)を行います。
申請主体と場所
原則として、在留資格の申請(在留資格認定証明書交付申請など)は、日本に入国または在留を希望する外国人本人が申請主体となります。
ただし、本人が国外にいるなど、申請主体が直接申請できない場合は、法務省令に基づき、以下のいずれかの者が、受け入れ機関の所在地等を管轄する地方出入国在留管理官署に申請書類を提出することができます。
- 法定代理人(法務省令で定められた者。未成年者の親権者など)
- 日本に居住する親族(配偶者、父母、子など)
- 所属機関の職員(外国人を受け入れようとする機関の職員。雇用主の職員、教育機関の職員など)
- 申請等取次者(申請者または代理人から依頼を受けた、出入国在留管理庁長官に届出済みの弁護士または行政書士)
申請書類の準備
申請書(別記第6号の3様式等)、写真、雇用契約書、会社の事業内容や安定性を証明する資料、および外国人の学歴・職歴・専門性を証明する資料など、上陸許可基準に適合することを立証する書類を提出します。外国語で作成された書類には日本語の翻訳文を添付する必要があります。
| カテゴリー | 準備すべき書類 |
|---|---|
| 申請書・共通資料 | 申請書(別記第6号の3様式)、写真 |
| 受け入れ企業に関する資料 | 会社の事業内容や安定性を証明する資料(登記簿謄本、決算書類など) |
| 外国人本人に関する資料 | 学歴・職歴・専門性を証明する資料(卒業証明書、在職証明書など) |
| 契約に関する資料 | 雇用契約書、雇用条件通知書など |
CoEの交付と査証
審査の結果、基準に適合すると認められた場合、CoEが交付されます。CoEの有効期間は交付日から3か月以内であり、この証明書を外国にある日本大使館等に提示することで、査証(ビザ)の発給を受け、入国時の上陸審査が簡便化・迅速化されます。
審査期間の現在地と長期化への備え
CoE交付申請の標準的な審査期間は公表されていませんが、審査業務の円滑な実施を図ることが目的とされています。実務上、審査期間を短期化するための具体的な措置があります。
優先処理の基準と期間
対象案件
本邦の公私の機関との雇用契約に基づく在留資格認定証明書交付申請案件のうち、過去3年間にわたり当該機関に係る外国人の入国・在留諸申請について、不交付・不許可となったことがない機関、または株式上場企業もしくはこれと同程度の規模を有する機関との契約に基づいて活動を行うことを目的とする案件は、原則として申請受理日から2週間以内に処理されることが目標とされています。
実務的意義
貴社がこの優遇基準(優先処理の対象)を満たす場合は、申請書にその旨を明記し、迅速な審査を期待できます。
長期化への備えと電子申請の活用
資料の適格性確保
提出された申請書や立証資料のみで許否の判断が困難な案件(D案件)に振り分けられた場合、追加資料の提出が求められ、処理期間が長期化します。提出前に、資料の正確性、信憑性、および法務省令に定める基準への適合性を徹底して確認してください。
電子申請(オンライン申請)の積極的利用
在留申請手続きは、地方出入国在留管理局の窓口や郵送に加え、「出入国在留管理庁電子届出システム」を利用したインターネット経由での提出が可能です窓口に赴く必要がなく、24時間365日利用可能です。
また、在留資格変更許可申請または在留期間更新許可申請の手数料は、窓口申請の6,000円に対し、オンライン申請では5,500円と安価に設定されています。これは、混雑解消を目的とした政府の取り組みです。
Part 4: 知っておくべき不許可・リスク回避策
「技人国」ビザが不許可になる典型的な理由トップ3
在留資格「技人国」の審査において不許可となる理由は、主に「在留資格該当性」または「上陸許可基準適合性」を満たしていないと判断されることに起因します。企業が採用リスクを回避するために特に留意すべき典型的な理由は以下の通りです。
| 順位 | 不許可になる典型的な理由 | 審査上の根拠(抜粋) | リスク回避策 |
|---|---|---|---|
| 1 | 業務内容と専門性の不一致(単純労働の疑い) | 従事しようとする業務が、申請人の専攻した知識(人文科学・自然科学)または外国の文化に基づく思考・感受性を必要とすると認められない。 | 採用業務の詳細な職務記述書を作成し、大学での専攻や実務経験がその業務に必須であることを論理的に証明する。 |
| 2 | 報酬の不適正(日本人との均等待遇違反) | 申請人が受ける報酬額が、日本人が同等の業務に従事する場合に受ける報酬と同等額以上であると認められない。 | 賃金規程や日本人社員の報酬台帳に基づき、外国人社員の報酬が劣後していないことを客観的な資料(報酬に関する説明書等)で立証する。 |
| 3 | 申請内容の虚偽または信憑性の欠如 | 提出資料の記載内容に矛盾がある、または学歴・職歴等に関する資料の信ぴょう性に疑義がある。過去の在留状況(不法就労等)に問題がある。 | 申請書類の事実関係を徹底的に確認し、特に学歴や職歴に関する証明書が偽造・変造文書でないことを確認する。不正な行為があった場合、許可は取り消され得る。 |
特に、在留資格変更許可申請においては、過去の在留状況が良好でない場合(例:留学中の出席状況が不良、資格外活動の許可を得ずに就労していた等)には、許可を適当と認めるに足りる「相当の理由がない」と判断されることがあります
まとめと企業が今すぐすべき行動
外国人材の採用を成功させるためには、単に雇用契約を締結するだけでなく、入管法務上の要件を正確に理解し、リスクを徹底的に排除するための行動が不可欠です。
企業が今すぐすべき具体的な行動は以下の通りです。
業務内容の再定義と文書化
採用予定の外国人材の専門知識(学歴や職歴)が、日本で従事する業務に必須の要件であることを明確にする詳細な職務記述書を作成し、単純労働の疑いを排除してください。
報酬体系の透明化と公正性の証明
同等の業務を行う日本人社員の報酬と比較し、外国人社員の報酬が同等以上であることを確実にした上で、報酬に関する客観的な説明資料を整備してください。
法令遵守体制(コンプライアンス)の継続的な維持
企業自身が、労働、社会保険、租税に関する法令を遵守し、納税義務や社会保険加入義務を履行し続けていることを確認してください。これらの公的義務の不履行は、在留資格審査において消極的な要素として評価されます
デジタル申請の活用促進
在留申請手続きにおいて、「出入国在留管理庁電子届出システム」の利用を積極的に進めてください。これにより、迅速な審査が期待できるとともに、在留資格変更・更新申請の手数料が割安になるメリットがあります
リスク情報の事前収集
採用予定の外国人が、過去の在留活動(特に留学や技能実習)において、在籍状況が不良であったり、不法就労活動を行っていたりといった、在留資格変更・更新の不許可事由に該当する要素がないかを事前に慎重に確認してください。
不許可リスクを最小限に抑えるためには、虚偽の申請を避け、常に真実に基づいた申請を徹底することが重要です。
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