特定技能「介護」から「介護ビザ」への移行:長期雇用実現の要件と手順

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介護分野における人手不足が深刻化する中、即戦力となる特定技能外国人の活躍は、事業所の持続可能性に不可欠です。

特定技能「介護」の在留期間には通算で上限5年という制限がありますが、この期間中にキャリアアップを図り、在留期間に制限のない在留資格「介護」へ移行させることは、優秀な外国人材を永続的に雇用するための最重要戦略です。

在留資格「介護」は、介護福祉士の国家資格を持つ専門職に与えられるものであり、外国人材の定着と企業の安定的な事業運営に直結します。

本稿では、特定技能外国人(介護分野)を在留資格「介護」へスムーズに移行させるための、具体的な要件、国家資格取得の道筋、および企業が果たすべき支援義務について、入管法務に携わる行政書士として解説します。

在留資格「介護」への移行が実現するメリット

特定技能外国人が在留資格「介護」を取得することは、外国人本人と、長期的な人材確保を目指す介護事業者の双方にとって大きなメリットをもたらします。

在留期間の制限撤廃と永住への道

在留資格「特定技能1号」は通算で5年間という在留期間の上限が設けられています。これに対し、在留資格「介護」の在留期間は5年、3年、1年または3月と定められており、更新回数に制限がありません

これにより、外国人材は日本で長期的なキャリアを築き、企業は永続的な雇用を実現できます

また、在留資格「介護」は、安定した在留資格として、将来的に永住許可の要件(主に10年以上の在留、うち5年の就労実績等)を満たす道筋を開くことにもつながります。

家族の帯同が可能となり生活基盤が安定

特定技能1号の在留資格では、原則として配偶者や子の家族帯同は認められていません。しかし、在留資格「介護」へ移行することで、その者の扶養を受ける配偶者または子は在留資格「家族滞在」を取得し、日本に在留することが可能となります。

家族が一緒に日本で暮らせることで、外国人材の生活基盤が安定し、モチベーション維持と定着率の向上に大きく貢献します。

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特定技能「介護」から移行するための3つの主要要件

特定技能「介護」の在留資格から、在留資格「介護」へ移行するために、外国人が満たすべき最も重要な要件は、介護福祉士国家資格の取得です。

要件1:介護福祉士国家資格の取得

要件1:介護福祉士国家資格の取得

在留資格「介護」が認められる活動は、介護福祉士の資格を有する者が、介護又は介護の指導を行う業務に従事する活動です。したがって、特定技能外国人にとって、在留資格「介護」への変更を申請するためには、介護福祉士国家資格の取得が必須となります。

この資格は、日本の社会福祉士及び介護福祉士法に基づく国家資格であり、高度な知識と技能を証明するものです。

要件2:日本語能力の確認(資格取得により証明される)

要件2:日本語能力の確認(資格取得により証明される)

在留資格「介護」の上陸許可基準では、介護福祉士の資格を有することと併せて、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」が求められています。

介護福祉士国家試験は日本語で実施されるため、この国家資格を取得すること自体が、専門的な業務を遂行するために必要な高度な日本語能力を客観的に証明するものとなります。

要件3:企業(受入れ機関)の安定性と継続性

要件3:企業(受入れ機関)の安定性と継続性

在留資格の変更許可申請が認められるためには、申請者(外国人)自身の要件に加え、雇用する企業(特定技能所属機関)の継続性と安定性も審査の対象となります。

具体的には、特定技能所属機関は、在留期間更新許可申請時等において、納税義務、社会保険料の納付義務、労働関係法令の遵守といった公的義務を履行していることが求められます。

これらの義務の履行状況は、永続的雇用を前提とする在留資格「介護」への移行の際にも、許可を判断する上での重要な要素となります。

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最大の関門:介護福祉士国家資格の取得ルート

必須要件:実務経験3年と実務者研修の受講

特定技能外国人が介護福祉士国家資格を目指すための最も一般的なルートは、実務経験ルートです。

受験資格の取得には、原則として以下の2点が必須となります。

  1. 介護等の業務に3年以上従事すること。
  2. 実務者研修を修了すること。

特定技能1号の在留期間は通算で最大5年間であり、この期間内に実務経験要件(3年)を満たし、合格を目指す必要があります。

介護福祉士国家資格取得までのステップ(特定技能ルート)

企業は、外国人材が確実に資格を取得できるよう、計画的なサポートが求められます。

No.ステップ詳細(企業がすべきサポート)
1.特定技能1号で雇用開始雇用契約締結、支援計画に基づく義務的支援の開始。
2.実務者研修の受講企業が費用負担・受講時間調整を積極的にサポート。
3.実務経験3年達成継続して介護業務に従事させる(受験資格要件)。
4.国家試験の受験受験手続きの支援、業務時間外の学習サポートを実施。
5.資格取得・在留資格変更資格登録後、報酬・待遇の見直しを実施し、入管へ変更申請。

企業が行うべき学習・研修サポート

特定技能所属機関には、外国人に対し、その活動を安定的かつ円滑に行うための支援(義務的支援)を実施する義務があります。介護分野では、特に以下の支援を通じて国家資格の取得を後押しすることが重要です。

  1. キャリアアップ計画の作成 将来のキャリア目標と、それに対する事業所が行う支援の内容を記載したキャリアアップ計画を作成することが求められています。
  2. 研修・学習機会の提供 外国人に対し、介護の日本語学習や介護の質の向上に向けた介護の研修受講を積極的に促すことが求められます。
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特定技能ルートとEPAルートの決定的な違い

介護分野における外国人材の受入れルートには、特定技能のほかにEPA(経済連携協定)に基づく受入れがあります。両ルートには、在留資格の性質や企業側の義務に決定的な違いがあるため、理解しておく必要があります。

制度比較:特定技能 vs EPA
比較項目特定技能ルート(特定技能1号)EPAルート(特定活動:介護福祉士候補者)
在留目的の主軸労働力確保(即戦力)資格取得・人材育成(研修生)
在留期間(資格取得前)通算5年間が上限4年間が上限
企業への義務義務的支援計画の作成・実施(支援機関委託可)研修責任者・支援者の配置(特定の研修指針に準拠)
家族帯同不可(1号時)不可
国家試験の受験実務経験3年+実務者研修修了4年間の研修期間内に受験(合格が必須)

企業側の義務と支援体制の違い

EPA介護福祉士候補者の研修は、厚生労働省の定める指針に基づき、介護福祉士養成施設の実習施設と同等の体制が整備された施設等で行われます。

一方、特定技能ルートでは、特定技能所属機関が1号特定技能外国人支援計画を作成し、入国前の情報提供、空港送迎、住居確保、生活オリエンテーションなど義務的な支援を包括的に実施する義務を負います。

企業が行うべき具体的な移行サポートと申請フロー

資格取得後の雇用契約の見直しと報酬の適正化

特定技能外国人が介護福祉士国家資格を取得し、在留資格「介護」へ移行する際には、雇用契約を「介護福祉士」としての職務内容と地位に見合ったものに見直す必要があります。

資格取得後は専門性の高い業務に従事する専門職として、その報酬を適正に引き上げ、キャリアアップを待遇に反映させることが、永続的雇用の実現には不可欠です。

在留資格変更許可申請の流れと必要書類

在留資格「介護」への変更は、出入国在留管理庁に対して在留資格変更許可申請を行う必要があります。

  1. 申請者と申請取次者 申請は原則として外国人本人が法務大臣に対して行いますが、介護事業所の職員や入管申請取次行政書士が地方出入国在留管理局に申請することで、申請者に代わって申請書類の提出をすることができます。
  2. 申請時期 現在の在留資格の在留期間が満了する前に申請を行う必要があります。
  3. 主な必要書類
  • 在留資格変更許可申請書
  • 介護福祉士の資格を有することを証する文書(国家資格の合格証および登録証明書等)
  • 活動の内容、期間、地位および報酬を証する文書(雇用契約書等)
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まとめ

特定技能「介護」から在留資格「介護」への移行は、介護事業者が長期的に優秀な外国人材を確保し、事業の安定と発展を図るための必須の戦略です。この移行の最大の鍵は、介護福祉士国家資格の取得にあり、企業は、計画的な学習・研修の機会提供を継続的に実施しなければなりません。

国家資格取得後の在留資格変更許可申請においては、行政法務手続きの専門家である行政書士が申請取次者として、複雑な必要書類の準備や手続きを代行し、申請をスムーズかつ確実に進める役割を担うことができます。資格取得後の待遇改善と合わせて、専門的なサポートを活用し、外国人材の永続的な活躍を実現してください。

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