【試験免除】技能実習から特定技能への移行戦略と企業マニュアル

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外国人材採用において、すでに日本国内で「技能実習」の在留資格を持つ人材を「特定技能」へ移行させるルートは、企業にとって最も確実性が高く、効率的な採用戦略の一つです。

特に、本来必要とされる技能試験や日本語試験が免除される「特例」を最大限に活用できる点が魅力です。

しかし、このスムーズな移行を成功させるためには、企業側が「技能実習2号を良好に修了」していることの厳格な定義を理解し、必要な証明書類を適切に収集することが不可欠です。

本記事では、技能実習生を特定技能人材として採用・移行させるために企業が取るべき具体的な戦略、試験免除の要件、そして入管申請における重要書類の準備方法を詳しく解説します。

技能実習からの移行が「最もスムーズ」な理由

特定技能1号は、原則として外国人材が「技能水準」「日本語能力水準」という2つの要件を試験により証明しなければ取得できません。

しかし、技能実習2号を良好に修了した者には、この要件が大幅に緩和される特例が適用されます。

特定技能1号の原則的な要件

特定技能1号の在留資格を得るには、原則として以下の試験その他の評価方法により証明されている必要があります。

  • 技能水準

各分野で定められた特定技能1号評価試験の合格(即戦力レベルの技能証明)。

  • 日本語能力水準

国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)または日本語能力試験(JLPT)N4以上の合格(生活・業務に必要な日本語能力の証明)。

これらの試験合格は時間とコストがかかるため、採用計画を遅らせる大きな要因となります。

最大の特例:「試験免除」の条件

特定技能制度では、技能実習2号を良好に修了した者に対し、以下の条件をすべて満たした場合、上記で述べた技能試験および日本語試験の証明が原則として免除されます。

免除される試験条件(特例の適用)
試験種別条件(特例の適用範囲)
技能試験(特定技能1号評価試験)技能実習で修得した技能と、特定技能で従事する業務に関連性が認められること。
日本語試験(N4相当)技能実習2号を良好に修了した実績をもって、日本語能力を証明したものとみなされる。
介護分野(介護職種・介護作業の修了者を除く)自動車運送業分野(タクシー・バス運転者)及び鉄道分野(運輸係員)では、別途の日本語能力水準の証明が求められます。

この特例により、企業は試験の合格待ち期間なしに、技能レベルが担保された人材を速やかに特定技能1号として採用することができます。

試験免除を適用するための2つの要件

この特例を確実に適用するためには、以下の2つの要件を満たしていることを客観的に証明する必要があります。

要件1:技能実習2号の「良好な修了」とは

「技能実習2号を良好に修了した者」とは、以下のすべてを満たした外国人材を指します。

  1. 技能実習の実施期間: 技能実習を2年10か月以上修了していること。
  2.  技能評価: 技能実習の目標である技能検定3級またはこれに相当する技能実習評価試験(専門級)の実技試験に合格していること。
  3. 在留状況の良好性: 技能実習期間中の法令違反がなく、特に失踪(逃亡)歴がないこと。

不合格の場合の注意点

技能検定3級等の実技試験に合格していない場合でも、元の実習実施者(受入れ企業)が作成した「技能実習生に関する評価調書」(参考様式第1-2号)などにより、目標としていた技能水準に達していることが証明できれば、「良好に修了した」と認められる場合があります。

ただし、技能実習生が機構による受検手続支援を受けていた場合、試験実施機関から機構へ直接合否結果が通知されるため、合格証書等の証明書類の提出は省略が可能です。

わかりにくい場合は↓の表をご参照ください。

証明パターン必要な行動・提出書類
パターン1: 受検手続支援を受けていた場合企業側の行動は不要。(証明書提出を省略可)
技能実習生が「外国人技能実習機構(OTIT)」の支援を受けていた場合、合否結果が入管庁に通知されるため、申請時に合格証書の提出は不要です。
パターン2: 合格証書がない場合(不合格含む)「技能実習生に関する評価調書」を提出
元々の実習実施者(前の雇用元)に、目標の技能水準に達していることを証明する評価調書を作成してもらう必要があります。これにより、技能検定の合格に代えて「良好に修了した」と認められる場合があります。
技能実習2号を「良好に修了した」と証明するためには、原則として技能検定3級の実技試験合格証書が必要です。
しかし、上記のいずれかの方法で技能水準を証明できれば、合格証書がなくても試験免除の特例を受けることが可能です。
試験結果に関わらず、元実習実施者が作成する「評価調書」は、技能水準を客観的に証明する上で最も重要な書類の一つとなります。円滑な移行のために、前任の雇用元との連携が鍵となります。

要件2:技能実習の職種と特定技能の業務の「関連性」

技能実習で学んだ技能と、特定技能で従事しようとする業務との間に関連性が認められることが、技能試験免除の必須条件です。

  • 定義: 技能実習で修得した技能が、特定技能で従事しようとする業務で要する技能と技能の根幹となる部分に関連性が認められる場合が該当します。
  •  関連性の確認方法: 法務省の「特定技能運用要領」には、技能実習の職種・作業と特定技能の業務との関連性が認められる具体的な対応関係表が示されています。採用企業は、必ずこの対応関係表を確認し、採用しようとする人材が過去の実習内容と一致するかを確認する必要があります。
  • 留意すべき例:例えば、建設分野の「型枠施工」(建築区分に対応)から、特定技能の「土木作業」(土木区分に対応)への移行は、関連性のある業務区分間の移行とは認められない場合があります。
【試験免除対象分野一覧】
特定技能1号 分野(業務区分)技能実習2号 移行対象職種・作業(抜粋)
介護介護(介護作業)
ビルクリーニングビルクリーニング(ビルクリーニング作業)
工業製品製造業鋳造、鍛造、機械加工、仕上げ、金属プレス加工、鉄工、工場板金、めっき、電子機器組立て、塗装、溶接、工業包装など多岐にわたる製造関連作業
建設さく井、型枠施工、鉄筋施工、とび、左官、かわらぶき、タイル張り、建築大工、配管、建築板金、内装仕上げ施工、表装、建設機械施工、築炉、塗装、溶接、鉄工など多岐にわたる建設関連作業
造船・舶用工業溶接、塗装、鉄工、仕上げ、機械加工、電気機器組立て、配管、鋳造、金属プレス加工、強化プラスチック成形、機械保全、電子機器組立てなど多岐にわたる造船・舶用関連作業
自動車整備自動車整備(自動車整備作業)
航空空港グランドハンドリング(航空機地上支援、航空貨物取扱、客室清掃)
宿泊宿泊(接客・衛生管理作業)
農業耕種農業(施設園芸、畑作・野菜、果樹)、畜産農業(養豚、養鶏、酪農)
漁業漁船漁業(かつお一本釣り漁業、まき網漁業など10作業)、養殖業(ほたてがい・まがき養殖作業)
飲食料品製造業缶詰巻締、食鳥処理加工業、加熱性水産加工食品製造業、非加熱性水産加工食品製造業、牛豚食肉処理加工業、ハム・ソーセージ・ベーコン製造、パン製造、そう菜製造業、農産物漬物製造業、医療・福祉施設給食製造など
外食業医療・福祉施設給食製造(一部)
林業林業(育林・素材生産作業)
木材産業木材加工(機械製材作業)
  • 介護分野では、技能実習2号を修了していても介護日本語評価試験の合格は免除されないことに留意が必要です(介護職種・介護作業の技能実習2号を良好に修了した者を除く)。
  • 自動車運送業分野(タクシー運転者、バス運転者に限る)および鉄道分野(運輸係員に限る)についても、日本語能力試験(N3レベル)の証明が必要となるため、技能実習2号修了者であっても試験の免除はされません。(上記の表では除外しています。)
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企業側が取るべき具体的な移行戦略

技能実習生を特定技能として採用する際、企業側が最も注力すべきは「証明書類の収集」「法令遵守に基づく適切な手続」です。

良好な修了と関連性の確認

  1. 技能検定合格証明書の確認: 外国人本人から、技能検定3級(またはこれに相当する試験)の実技試験の合格証明書の写しを提出させます。上記のとおり、機構による受検手続支援を受けている場合、提出は省略可能です。)
  2. 実習実施者の確認: 技能検定等に合格していない場合、または証明書が得られない場合に備え、元の実習実施者(前の雇用元)に対し、「技能実習生に関する評価調書」(参考様式第1-2号)などの技能等の修得状況を評価した文書の作成または提供を依頼できるか確認します。
  3. 関連性の確認: 採用予定の特定技能の業務が、過去の技能実習の職種・作業と関連性があることを、公的な対応関係表に基づき確認します。

必須書類の収集と準備

特に重要となる証明書類は、「良好な修了」「雇用契約・支援計画の適合性」に関する文書です。

必須書類取得元(協力が必要な機関)注意点
技能実習評価調書(参考様式第1-2号など)元の実習実施者(技能実習時の雇用元)最も重要です。合格証明書がない場合に提出が必要です。代替文書の提出も可能です。
技能検定3級等の合格証明書外国人本人または試験実施機関技能評価調書と合わせて提出することで、より確実に証明できます。
特定技能雇用契約書(写し)採用企業(特定技能所属機関)報酬の適正性(日本人と同等以上)を明確に示すこと。申請人が十分に理解できる言語で作成し、同意を得ることが必要です。
1号特定技能外国人支援計画書(写し)採用企業または登録支援機関在留諸申請時に、その他の申請書類と併せて提出しなければなりません。事前ガイダンスの実施など、申請前の義務的支援の完了も要件です。

評価調書が得られない場合

元の実習実施者との関係悪化などにより、評価調書(参考様式第1-2号)の取得が困難な場合があります。

その場合、以下の代替文書を提出し、地方出入国在留管理局において総合的に評価してもらうことが可能です。

  • 評価調書が得られない理由書(任意様式)
  • 当時の技能実習指導員等が作成した技能実習の実施状況を説明する文書(任意様式)
  •  技能実習実施機関が発行した実習実施証明書

在留資格変更申請の実行

必要な書類が揃い、特定技能雇用契約および支援計画が策定できたら、地方出入国在留管理局に対し「在留資格変更許可申請」を行います。

  • 申請人: 原則、外国人本人(ただし、オンライン申請も可能です)。
  • 申請取次(代行): 企業の職員(地方出入国在留管理局長が適当と認めた者)または入管申請取次行政書士が行うことができます。これらは申請人本人の出頭を免除する「申請取次」の形態です。
  • 審査期間: 特定技能への変更申請は比較的申請数が多く、審査期間は変動しますが、スムーズな移行のためには余裕をもって準備を進めることが重要です。
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移行を失敗させないための重要リスク対策

在留資格変更申請は、外国人本人の過去の在留状況(コンプライアンス)が厳しく審査されます。

「失踪歴」は致命的な欠格事由

技能実習の在留資格に応じた活動を行わなかった、いわゆる「失踪した技能実習生」は、原則として在留資格変更許可の「相当の理由があるとは認められない」と判断されます。

不許可リスク: 失踪歴がある場合は、特定技能への変更申請は非常に困難であり、不許可となる可能性が極めて高くなります。

在留状況の不良(罰則・公的義務違反)

過去の在留期間中に、交通違反や労働基準法、社会保険各法などの法令違反を犯し、罰金以上の刑に処せられた場合、素行善良要件を欠くと見なされ、不許可リスクが高まります。

  • 公的義務の履行: 特に、納税義務や社会保険料の納付義務の不履行が判明した場合、在留資格の更新や変更において、審査上の消極的な要素として考慮されます。
  • 企業のリスク: 採用企業側も、特定技能雇用契約の締結の日前5年以内に出入国・労働法令違反を犯している場合や、特定技能外国人への支援を怠った場合(支援義務の不履行は不正行為に含まれます)は欠格事由に該当し、特定技能外国人を受け入れられなくなります

技能実習途中の変更は原則不可

技能実習の計画途中にいる外国人(技能実習1号または2号の途中)は、原則として特定技能への変更は認められません

例外的な相談

実習実施者の経営上の都合(例:倒産、人員整理)など、やむを得ない特別な事情があり、計画途中で技能実習を終了し移行することについて、地方出入国在留管理局に事前に相談することは可能です。

そのハードルは非常に高いですが、実習実施者や監理団体は、技能実習生が最善の選択をできるよう情報提供等の支援を行うことが求められます。

特定技能から2号へ:長期定着に向けたキャリアパス

技能実習から特定技能1号へ移行した後、企業はさらなるキャリアアップとして特定技能2号への移行を促すことで、長期的な人材定着を実現できます。

特定技能2号への移行は、特定技能1号の通算5年の在留期間上限を撤廃し、家族帯同(家族滞在)を可能にするため、外国人材のモチベーション維持に不可欠です。

2号移行の要件

特定技能2号の在留資格を得るためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 熟練した技能: 従事しようとする業務に必要な熟練した技能を有していることが、試験その他の評価方法により証明されていること。これは、自らの判断により高度に専門的・技術的な業務を遂行できる水準(技能検定1級相当)が想定されています。
  • 実務経験: 特定の分野によっては、試験に加えて実務経験が要件となる場合があります。
  • 技能移転の努力:技能実習の在留資格で在留していたことがある者は、修得・習熟・熟達した技能等の本国への移転に努めるものと認められること。

技能実習で培ったスキルをベースに、特定技能1号として5年間(最長)経験を積み、その後の2号移行まで視野に入れた支援を行うことが、優秀な外国人材を日本に定着させるための最善の戦略です。

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スムーズな移行は専門家への相談から

技能実習から特定技能への移行は、試験免除という大きなメリットがある一方で、「良好な修了」の証明(評価調書など)や「関連性」の判断において、実務上は多くの専門的な判断が求められます。

特に、前職(実習実施者)からの書類収集に難航した場合や、外国人本人の在留状況(公的義務の履行状況を含む)に懸念がある場合は、自社で手続きを進めることで不許可リスクを高めてしまう可能性があります。

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