在留資格「留学」完全ガイド:要件、資格外活動と就労ビザへの進路

外国人材の採用や育成は、企業のグローバル戦略において喫緊の課題であり、日本国内の教育機関で学んだ留学生は、高度な専門性と日本語能力を兼ね備えた貴重な人材源です。
しかし、留学生の在留資格「留学」は、学業への専念を厳しく求めるため、他の就労資格とは異なる特有のルールが存在します。特に、アルバイトに関する「資格外活動」の制限を巡る違反は、将来の就労ビザ取得に直結する大きなリスクとなり得ます。
本稿は、外国人留学生の採用を検討されている企業の人事担当者様、および留学生を指導・サポートする教育機関の関係者様向けに、「留学」ビザの取得要件、厳格な活動ルール、そして卒業後のキャリア移行戦略について、実務的な観点から詳細に解説します。
「留学」ビザとは?制度の目的と対象機関
在留資格「留学」は、外国人が日本国内の教育機関に入学し、教育を受ける活動を行うことを目的として付与されるものです。
- 対象機関
原則として、大学、高等専門学校、専修学校の専門課程、高等学校、中学校、小学校、各種学校、またはこれらに準ずる機関(日本語教育機関など)が対象となります。
- 制度の限界
専ら夜間通学や通信により教育を受ける場合、または認定日本語教育機関など告示で定める機関以外で専ら日本語教育を受ける活動は、原則として「留学」の対象外となります。
- 在留期間
許可される在留期間は、4年3ヶ月を超えない範囲内で、個々の外国人について法務大臣が指定する期間となります。
在留資格「留学」の取得・更新における主要な要件
「留学」の在留資格の取得(認定証明書交付申請)および更新(在留期間更新許可申請)においては、「学業専念」「経費支弁能力」「在籍状況の適正管理」の3つの要件が厳格に審査されます。
1. 学業専念要件
「留学」の在留資格は、学業を主たる活動とすることを前提としています。在籍する教育機関は、外国人学生の出席状況、入管法上の規定(資格外活動の範囲など)の遵守状況、および学習の状況等を適正に管理する体制を整備していることが求められています。
在留期間の更新時も、申請人が引き続き「留学」の在留資格に該当する活動を行っているか、つまり学業に専念しているかどうかが確認されます。学業に専念していると認められない場合(例えば、出席率の低さや成績の不良)は、在留期間の更新が不許可となる具体的な理由となります。
2. 経費支弁能力要件
申請人は、日本に在留する期間中の生活に必要な費用を支弁するに足る十分な資産、奨学金その他の手段を有していることが条件となります。
- 支弁者の特定
申請人本人以外の者が経費を支弁する場合、その支弁者(扶養者)も同様に、その収入を証する文書などにより、確実に経費を支弁できることを立証する必要があります。
- 立証の厳格化
経費支弁者が申請人本人以外の第三者である場合、入管は、支弁に至る経緯を記した説明書の提出を求め、その信憑性を厳しく確認します。
特に、支弁者に安定した収入がない場合は、銀行等の預金残高証明書により、現実的な支弁能力を証明しなければなりません。この経費支弁の手段が確実ではないと判断された場合は、不許可となる消極的な要素となります。
出席率・成績要件(特に更新時)
特に在留期間の更新許可申請時には、学業の継続性・専念性を確認するため、以下の点が審査されます。
- 成績および出席状況
過去の在学状況が良好でない場合(例:出席率が低い、成績が振るわないなど)、在留状況が不適当と見なされ、不許可事由となります。
- 留年
通常の修学期間を超えて在学している場合(留年など)、引き続き在留を認めるに足りる合理的な理由の疎明が求められます。
資格外活動(アルバイト)のルールと注意点
「留学」の在留資格を持つ外国人が、学費や生活費を補う目的で報酬を受ける活動(アルバイト)を行う場合、原則として事前に資格外活動の許可を受けなければなりません。
- 事前の許可
在留資格に属さない収入を伴う活動は、本来の在留活動(学業)を阻害しない範囲内で、資格外活動許可を受けて初めて可能となります。
- 就労時間制限(週28時間、長期休業)
学費等の必要経費を補うためのアルバイト活動に対して包括的な許可が下りた場合、就労時間は1週につき28時間以内に制限されます。ただし、教育機関が学則で定める長期休業期間中は、1日につき8時間以内、かつ週40時間以内まで稼働が可能となります。
- 活動場所の制限(風俗営業等)
資格外活動の許可を受けた場合であっても、風俗営業、店舗型性風俗特殊営業、無店舗型性風俗特殊営業、映像送信型性風俗特殊営業、店舗型電話異性紹介営業、無店舗型電話異性紹介営業が営まれている営業所での活動は禁止されています。
なお、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)に規定される営業所に該当するかの判断は、在留資格の適否に直結する専門的な判断事項です。当事務所では、風営法関連の許認可も業務として取り扱っておりますので、詳細な判断基準については【こちらの専門解説記事】をご参照ください。
- オーバーワークの不許可リスク
許可を得ずに報酬を受ける活動に従事した場合、または許可された時間を大幅に超過して稼働した場合(オーバーワーク)は、在留状況が良好と認められないとして、在留期間の更新や他の就労資格への変更が不許可となる、最も重大なリスクの一つです。雇用する企業側も、不法就労助長行為として罰則の対象となる可能性があります。
卒業後の進路:「就労ビザ」への変更と就職活動
留学生が卒業後も日本に在留し、企業で働くことを希望する場合、在留資格を就労資格に変更する必要があります。
- 「技術・人文知識・国際業務(技人国)」への変更が主流
日本の大学や大学院を卒業・修了した者、または日本の専修学校の専門課程を修了して「専門士」または「高度専門士」の称号を付与された者は、「技人国」ビザの学歴要件を満たします。
申請時には、従事しようとする職務内容が、専攻した科目や知識と関連性があることを立証しなければなりません。職務内容と専攻科目の関連性がない場合や、単純労働と見なされる業務に従事する場合は不許可となります。
また、報酬についても、日本人が同等の業務に従事する場合と同等額以上でなければなりません。日本人新卒社員との間で、外国人であることを理由に報酬に差別的な差がないよう、特に注意が必要です。
- 卒業後の「特定活動(継続就職活動)」への移行
大学や専門学校を卒業(修了)した後も引き続き日本で就職活動を継続したい場合、在留資格を「特定活動」(継続就職活動)へ変更することができます。
この「特定活動」は、卒業後も最長1年間、就職活動の継続と、それに伴う日常的な活動(収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を除く)を認めるものです。この期間内に就職先を決定し、速やかに「技人国」等の就労ビザへの変更申請を行う必要があります。
なお、この「特定活動」の在留資格で在留する者も、週28時間以内のアルバイト(資格外活動)が認められる場合があります。
留学ビザ申請における不許可リスクと行政書士の役割
「留学」ビザの審査では、特に「真の留学目的があるか」と「在留中の法令遵守」が重要です。
- 経費支弁能力の立証不備
申請時、経費支弁者の収入や預貯金が不十分である、または支弁者と申請人との関係の信憑性が低いと判断された場合、不許可となります。
申請者本人が多額の借金を負って来日していると疑われる場合も、その経済状況から学業専念が難しいと判断されるリスクがあります。
- 過去の資格外活動違反(オーバーワーク)
在留期間更新や在留資格変更の際、過去に資格外活動の許可を得ずに稼働していたり、許可された時間(週28時間)を超えて稼働していたことが判明した場合、在留状況が不良であるとして不許可となります。
これは、単なる就労ビザの申請における不許可に留まらず、退去強制(強制送還)の対象となり得る重大な法令違反です。
- 行政書士の役割
在留資格認定証明書交付申請等の手続は、地方出入国在留管理局長に届け出た弁護士又は行政書士が代理人として行うことができます。
特に経費支弁の複雑なケースや、過去の経歴に懸念がある場合など、不許可リスクを最小限に抑えるためには、法令に基づいた適切な書類作成と、入管法令の知識を持つ専門家(行政書士)による客観的かつ緻密な申請理由の構築が不可欠です。
将来的な優秀な外国人材の採用を見据えて
「留学」の在留資格は、将来、企業の成長を支える優秀な人材を国内で育成し、確保するための重要なステップです。特に、日本の大学や専門学校を卒業した留学生は、「技術・人文知識・国際業務」ビザへの移行において、専門性と日本語能力の両面で高いポテンシャルを有しています。
企業の人事担当者様においては、採用検討の際、過去の在留期間中の出席率、成績、および資格外活動の記録(オーバーワークの有無)を慎重に確認することで、法令遵守意識が高く、就労ビザへの移行がスムーズに見込める人材を確保することが重要です。
また、教育機関の関係者様においては、留学生が確実に在留資格の要件(特に経費支弁と資格外活動の制限)を理解し遵守できるよう、適切な指導と管理体制の維持が、留学生の未来を守るために求められます。
不安を確実な安心に変える3つのご案内
複雑な手続きや費用への不安は、私たち専門家にお任せください。貴社の採用計画を確実なものにするために、『不許可時成功報酬ゼロ』の覚悟と、当事務所のすべてをご案内します。



