【就労ビザ共通】許可・不許可を分ける二大審査基準と企業の義務

日本の在留資格(ビザ)の中でも、「技術・人文知識・国際業務」「特定技能」「経営・管理」といった就労系の在留資格には、個別要件とは別に、全ての申請者に共通して求められる普遍的な審査基準と、企業(受入れ機関)が負う法的義務が存在します。
これらの共通要件は、日本での活動基盤と法令遵守の意思、そして外国人材の適切な待遇を確保するために、入管庁が極めて厳格に審査する根幹的な項目です。
入管法の審査基準は、在留資格が変わっても、これら基本的な共通要件(審査項目)は同一の内容となることが多く、個別の在留資格解説記事では説明が重複しがちです。そのため、本記事ではあえて就労系ビザに共通する審査の基盤を詳細に解説し、今後は各在留資格の記事において「その資格特有のポイント」に焦点を絞って解説していきます。
本記事では、入管法務に携わる行政書士として、就労系在留資格の許可・不許可を分ける「普遍的要件」、「待遇に関する共通義務」、および「受入れ機関の適格性基準」について、実務的な観点から詳細に解説します。
共通審査の二大柱:生計維持能力と素行の善良性
在留資格の申請では、外国人が日本で安定的かつ合法的に活動を継続できるか、また、日本の社会秩序と法令を遵守しているかという普遍的な基準が確認されます。
生計を営むに足りる資産または技能(安定的収入)
申請者本人および、その扶養家族を含めた世帯全体が、将来にわたり日本で経済的に自立し、生活に困窮しないだけの継続的かつ安定的な収入や資産を有していることが求められます。
安定的な収入の定義と証明資料
- 安定的な収入とは、一時的な高収入ではなく、将来にわたって継続的に得られる確実な収入であることが重視されます。就労ビザの場合、雇用契約の内容、企業の安定性・継続性、日本人と同等以上の報酬額が厳しく審査されます。
- 証明資料は、直近の課税証明書・納税証明書(所得額と納税義務の履行確認)、預貯金残高証明書、雇用契約書などが求められます。
素行が善良であること(法令遵守の意思)
素行が善良であること(法令遵守の意思)
申請者が過去および現在において、日本の法律を遵守し、社会規範に従って生活しているかを確認する要件です。
審査対象となる行為(主な例)
- 刑罰歴: 禁錮以上の刑や罰金刑を受けた事実(特に薬物事犯、重大な交通違反)。
- 入管法違反歴: 不法残留、不法就労、資格外活動(週28時間超の就労など)違反、虚偽申請など。
- 公的義務の不履行: 納税義務(所得税、住民税など)や社会保険料(国民年金、国民健康保険料など)の滞納・未納。
就労系在留資格に特有の「待遇と人権保護」共通要件
外国人材の適正な就労と人権保護を確保するため、就労系在留資格の雇用契約には、在留資格を問わず共通する義務が課せられます。
報酬の同等性と差別的取扱いの禁止
報酬の同等性と差別的取扱いの禁止
- 申請者が受け取る報酬の額が、日本人が従事する場合の報酬と同等額以上であることが共通して求められます。
- 外国人であることを理由とした、報酬の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的な取扱いをしてはならないとされています。
不当な費用負担の禁止と一時帰国の確保
不当な費用負担の禁止と一時帰国の確保
- 申請人またはその親族等が、本邦での活動に関連して、保証金の徴収や財産の管理をされず、また、契約不履行について違約金を定める契約その他の不当に金銭の移転を予定する契約を締結していないことが求められます。
- 特定技能の在留資格では、外国人が一時帰国を希望した場合に、必要な有給休暇を取得させることが、雇用契約の基準として明確に定められています。
健康状態と年齢
健康状態と年齢
- 特定技能の申請時には、特定技能に係る活動を安定的かつ継続的に行うために健康状態が良好であることが求められ、新規入国の際は申請日から遡って3か月以内に医師の診断を受ける必要があります。
- 原則として18歳以上であることが求められます。
受入れ機関(企業)に共通する適格性基準
特定技能所属機関や技能実習の実習実施者など、就労系の外国人を受け入れる企業側には、以下のコンプライアンス基準が共通して求められます。
法令遵守と欠格事由への非該当
法令遵守と欠格事由への非該当
- 労働関係法令、社会保険関係法令、および租税関係法令の規定を遵守していることが必須です。税金や社会保険料の滞納は、特定技能制度では届出の対象となります。
- 過去5年以内に、禁錮以上の刑、出入国または労働に関する法令違反による罰金刑、不正または著しく不当な行為(人権侵害行為、偽変造文書等の行使、不当な保証金の徴収など)を行った場合は、受入れ機関として不適格と判断され、5年間は在留資格の認定または許可を受けることができません。
行方不明者の発生防止と帰国旅費の負担
行方不明者の発生防止と帰国旅費の負担
- 特定技能雇用契約の締結日前1年以内または締結日以後に、受入れ機関の責めに帰すべき事由により外国人の行方不明者を発生させていないことが求められます(特定技能の場合)。
- 外国人が雇用契約の終了後の帰国に要する旅費を負担することができないときは、特定技能所属機関などが当該旅費を負担すること、および出国が円滑になされるよう必要な措置を講ずることが義務付けられています。
申請手続きと提出書類に関する共通留意事項
就労系在留資格の申請手続きにおいて、提出が求められる共通の書類や手続き上の留意事項です。
共通する申請書類と証明事項
共通する申請書類と証明事項
- 目的ごとの申請書(認定証明書交付申請書、変更許可申請書、更新許可申請書)の提出が必要です。
- 申請前6か月以内に正面から撮影された無帽、無背景で鮮明な写真の提出が求められます。
- 申請人の活動内容、期間、地位および報酬を明らかにする雇用契約書(労働条件を明示する文書)の写し、またはこれに準ずる資料の提出が求められます。
受入れ機関の事業および財務状況の証明
受入れ機関の事業および財務状況の証明
- 勤務先等の沿革、役員、組織、事業内容が記載された案内書(パンフレット等)、または登記事項証明書など、事業内容を明らかにする資料の提出が必要です。
- 直近の年度の決算文書の写し(新規事業の場合は事業計画書)の提出が求められます。
提出書類の言語
提出書類の言語
- 外国語で作成された書類には、日本語の翻訳文を添付しなければなりません。ただし、一部の定型的な英語文書などは訳文の提出を省略できる場合があります。
まとめ
就労系在留資格の許可を獲得するためには、各ビザ特有の学歴・実務要件を満たすことに加え、申請者本人の安定的な生活基盤と、受入れ機関の法的義務の完全な履行を証明することが不可欠です。
特に、報酬の同等性の証明や、税金・社会保険料の滞納がないことの証明は、企業のコンプライアンス体制を厳しく問うものです。これらの共通要件を常に満たし、安定した在留資格の取得と更新を実現されることをお勧めします。
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