特定技能「宿泊分野」採用マニュアル:業務範囲、企業要件、運営基準

特定技能制度は、国内での生産性向上や人材確保の努力を行ってもなお人材不足が深刻な特定産業分野において、即戦力となる外国人材を受け入れることを目的としています。
宿泊分野は、この制度の対象となる特定産業分野の一つであり、ホテル、旅館、簡易宿所などの経営者にとって、深刻化する人手不足を解消するための重要な採用ルートとなっています。
宿泊分野で特定技能外国人が従事する業務は、「宿泊施設におけるフロント、企画・広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービスの提供」に係る業務です。
特定技能1号外国人に求められる技能水準は、これらの業務を特段の訓練を受けることなく直ちに一定程度遂行できる「相当程度の知識又は経験」です。
宿泊分野における特定技能の固有要件
特定技能制度の利用には、受入れ機関と外国人材の双方が、分野固有の厳格な基準を満たす必要があります。
企業(受入れ機関)が満たすべき特有の基準
宿泊分野の特定技能所属機関(受入れ企業)は、以下の固有の要件を遵守しなければなりません。
| 固有の基準 | 詳細 | 留意事項 |
|---|---|---|
| 旅館業法の許可 | 旅館・ホテル営業の形態で旅館業を営み、旅館業法第3条第1項の許可を受けていること。 | 簡易宿所営業や下宿営業は特定技能の受入れ対象外です。 |
| 協議会への加入義務 | 国土交通省が設置する宿泊分野に係る特定技能外国人受入れに関する協議会の構成員であること。 | 在留諸申請前に協議会に加入し、その証明書を提出する必要があります。 |
| 風営法関連規制の遵守 | 風営法に規定する「接待」を行う業務や、ラブホテル等(風営法第2条第6項第4号施設)での就労を特定技能外国人に行わせないこと。 | 接待行為の禁止は、就労資格全般において厳格に適用されます。 |
| 調査・指導への協力義務 | 協議会及び国土交通省が行う調査又は指導に対し、必要な協力を行うこと。 | 協力義務を怠ると、基準不適合となり受入れ継続ができなくなるリスクがあります。 |
当事務所では風営法関連も専門業務として取り扱っています。ご不明な点等ございましたら、お気軽にご相談ください。
外国人材が満たすべき技能・日本語能力要件
| 要件 | 特定技能1号(即戦力) | 試験免除(特例) |
|---|---|---|
| 技能水準 | 「宿泊分野特定技能1号評価試験」に合格。 | 「宿泊職種、接客・衛生管理作業」の技能実習2号を良好に修了した者。 |
| 日本語能力 | 「国際交流基金日本語基礎テスト」又は「日本語能力試験(N4以上)」に合格。 | 技能実習2号を良好に修了した者は、日本語試験(N4レベル)も免除。 |
| 特定技能2号への移行 | 1号で3年以上在留し、「宿泊分野特定技能2号評価試験」に合格する必要がある。 | 2号移行には、宿泊施設において複数の従業員を指導しながら業務に2年以上従事した実務経験が必要。 |
許容される業務範囲と職務の詳細
宿泊分野の特定技能外国人は、試験等で立証された技能を用いて、以下の宿泊サービスの提供に係る業務に幅広く従事することが求められます。
主業務(フロント、企画・広報、接客・サービス)の詳細な解説
宿泊分野の特定技能外国人が従事する主業務は以下の3つです。
| 主業務 | 業務例 |
|---|---|
| フロント業務 | チェックイン・チェックアウト、会計、予約管理、宿泊客への情報提供など。 |
| 企画・広報業務 | 宿泊プランの企画、SNS等を利用した広報活動、市場調査の補助など。 |
| 接客・サービス提供 | 荷物の運搬、客室への案内、共用施設の案内、レストランサービス業務(飲食物の配膳・片付け、注文受付)など。 |
「付随的業務」の明確化と実務上の留意点(清掃業務など)
特定技能外国人は、主業務を円滑に行うために、当該業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務に付随的に従事することが認められています。
付随的業務の例
- 館内備品の点検・交換業務、施設内の土産物等売店における販売業務など。
- 清掃、調理、洗濯等の業務も、宿泊サービスの提供全般に付随的に発生する業務として認められます。
禁止されている業務
- 専ら(主として)付随的業務のみに従事すること。
- 風営法第2条第3項に規定する「接待」を行う業務。
- 労働者派遣の対象とすること。(宿泊分野の特定技能外国人を派遣することも、派遣された者を受け入れることもできません。)
運営基準の遵守と採用戦略
【参照必須】就労ビザ共通の審査基準と企業の義務
特定技能所属機関は、特定技能雇用契約の適正な履行を確保するため、労働、社会保険、租税に関する法令の規定を遵守していること、および一定の欠格事由に該当しないことが求められます。
報酬の同等性:外国人に対する報酬の額が日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること。
差別的取扱いの禁止:外国人であることを理由として、報酬の決定、教育訓練、福利厚生などで差別的取扱いをしてはならない。
【共通要件の詳細】 :「生計維持能力」「報酬の同等性」「欠格事由への非該当」といった共通要件については、詳細は別記事(【就労ビザ共通】許可・不許可を分ける二大審査基準と企業の義務)をご参照ください。
採用ルートとしてのメリットと長期定着への視点
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 即戦力性の確保 | 技能試験等により「相当程度の知識又は経験」が証明された即戦力であるため、採用後すぐにフロント、接客等の主業務に従事させることができます。 |
| 長期雇用(特定技能2号) | 2号へ移行すれば、在留期間の更新回数に上限がなくなり、永続的な活躍が期待できます。 |
| 家族帯同の実現 | 特定技能2号に移行すると、配偶者と子どもの帯同が許可されるため、外国人材の生活基盤が安定し、定着率向上に繋がります。 |
| 定着と支援義務 | 定着のためには、一時帰国希望時の有給休暇の付与、および10項目の義務的支援(生活オリエンテーション、住居確保、相談対応、日本人との交流促進など)の実施が必須です。 |
まとめ
特定技能「宿泊分野」は、深刻な人手不足が続く宿泊業界にとって、即戦力となる外国人材を長期的に確保するための有効な手段です。受入れ企業には、旅館業法の許可、接待行為及び派遣労働の禁止といった固有の基準の遵守が求められ、特に国土交通省が設置する協議会への加入と協力義務が必須となります。
外国人材が従事できる業務は「フロント、企画・広報、接客・サービス提供」が主業務であり、清掃や調理などの関連業務は付随的にのみ認められます。採用後は、適正な報酬・待遇の確保に加え、特定技能2号へのキャリアパスを示すとともに、義務的な支援を通じて、外国人材の長期的な定着を支援することが、事業の安定に不可欠です。
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