内定後の在留資格変更手続きをスムーズに進める3つの企業サポート

外国人材の採用は、深刻化する人手不足を解消するための有効な手段です。特に、すでに日本国内に在留している「留学」や「技能実習」の外国人(以下、在留外国人)を特定技能人材として採用することは、採用活動の効率化につながります。
しかし、外国人を採用する企業(特定技能所属機関)が在留資格変更許可申請をスムーズに成功させるためには、日本の出入国在留管理制度のルール、特に特定技能制度特有の「企業側の支援義務」を深く理解し、適切に実行することが不可欠です。
本記事では、中小企業・個人事業主の皆様が在留資格変更手続きを円滑に進めるために、内定から就労開始までに企業側が取るべき具体的な行動と、そのサポートを怠った場合に生じる重大なリスクを解説します。
なぜ在留資格変更は慎重なのか? 企業が理解すべき基本原則
外国人が現在の在留資格(例:留学、技能実習)から、就労目的の在留資格(特定技能)へ切り替えることを「在留資格変更許可申請」といいます。この申請は、法務大臣が「変更を適当と認めるに足りる相当の理由があるとき」に限り許可されます。
特に、特定技能への変更においては、申請者である外国人本人の適格性に加え、企業側が制度の定める基準を満たしているかが厳しく審査されます。
在留資格変更許可の審査における「相当の理由」
特定技能への変更許可申請は、申請人の行おうとする活動、これまでの在留状況、在留の必要性などを総合的に勘案して判断されます。
留学からの変更における重要事項
「留学」の在留資格を持つ者は、本来は教育機関で教育を受けることが活動内容です。そのため、就労目的の特定技能へ変更するにあたっては、以下の点がチェックされます。
- 在籍状況の良好性
所属していた教育機関における在籍状況が良好でない者は、原則として「相当の理由がある」とは認められないと判断されます。具体的には、出席状況等が不良な場合、申請に係る活動を行うと認められないとして不許可となるリスクがあります。 - 内定企業のサポート
企業側は、卒業見込みや在籍状況に関する書類提出を迅速にサポートし、本人が学業を疎かにしていないことを証明する手助けをすることが重要です。
技能実習からの変更における特殊性
「技能実習」の在留資格を持つ者(技能実習生)からの在留資格変更は、身分関係の成立を理由とする場合を除き、原則として許可されないという特則があります。
しかし、特定技能制度では、以下の特例措置が設けられています。
- 技能実習2号の良好な修了者
外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)に定める技能実習2号を良好に修了している者であり、かつ、修得した技能が従事しようとする特定技能の業務と関連性が認められる場合、本来必須である技能試験および日本語試験が免除されます。これは、技能実習ルートから特定技能への移行を強く後押しする特例です。 - 不許可リスク
一方で、在留資格「技能実習」に応じた活動を行わないで在留していた、いわゆる「失踪した技能実習生」については、原則として相当の理由があるとは認められない具体的な例とされ、不許可のリスクが非常に高いです。 - 計画途中の変更
技能実習の途中にいる者(計画の途中にあるもの)は、原則として特定技能への変更は認められません。ただし、特定技能所属機関の経営上の都合など、やむを得ない事情がある場合は、地方出入国在留管理局に事前に相談することが求められます。
「特定技能」変更における特殊性
企業側の「支援義務」の発生
特定技能1号の在留資格変更申請において、最も重要な特徴は、企業側(特定技能所属機関)に外国人に対する支援の実施が義務付けられている点です。
特定技能所属機関は、外国人が「特定技能1号」の活動を安定的かつ円滑に行うことができるよう、職業生活上、日常生活上または社会生活上の支援(1号特定技能外国人支援)に関する計画(1号特定技能外国人支援計画)を作成し、申請書類と併せて提出しなければなりません。
この支援計画の策定・実行体制の有無が、在留資格変更許可の大きな鍵を握ります。
スムーズな手続きのための企業側サポートの3つの柱
中小企業・個人事業主が特定技能外国人を採用し、在留資格変更を成功させるためには、以下の3つの柱に基づき、具体的な行動をサポートする必要があります。
【第1の柱】完璧な申請準備:雇用契約の適合性と証明書類の準備
企業側は、特定技能雇用契約の内容が基準に適合していることを証明する責任があります。
- 雇用条件の適合性確認と説明
特定技能雇用契約は、日本人労働者が同等の業務に従事する場合の報酬と同等以上の報酬を支払うこと や、外国人であることを理由とした差別的な取扱いをしないこと、一時帰国を希望した場合に休暇を取得させること など、多くの基準を満たす必要があります。
サポートすべきこと
雇用契約書や雇用条件書(参考様式第1-5号、第1-6号など)を作成する際、これらの書類を外国人が十分に理解できる言語により作成し、外国人が内容を十分に理解した上で署名していることを確認しなければなりません。
- 技能・日本語能力の証明書類の確保
特定技能1号では、原則として、必要な技能水準および日本語能力水準を有していることが、試験や評価方法により証明されている必要があります。
サポートすべきこと
申請人が試験に合格していることを証明する合格証明書の写しを確実に収集します。
【第2の柱】特定技能特有の義務:支援計画の策定と実行体制の構築
特定技能1号の在留資格変更申請において、企業は義務的に1号特定技能外国人支援計画を策定し、実行しなければなりません。
- 支援計画の作成と提示
支援計画(参考様式第1-17号など)は、職業生活、日常生活、社会生活上の支援として省令で定められた10項目(事前ガイダンス、住居確保支援、生活オリエンテーション、相談・苦情対応など)の内容を記載し、申請時に提出します。
サポートすべきこと
支援計画は、日本語および外国人が十分に理解できる言語により作成し、その写しを当該外国人に交付しなければなりません。
- 申請前の義務的支援:事前ガイダンスの徹底
支援計画の10項目のうち、事前ガイダンス(支援項目①)は、在留資格変更申請前に行うべき必須の支援です。
サポートすべきこと
企業は、特定技能雇用契約の内容、活動内容、在留条件、保証金等の費用徴収の有無(徴収は禁止)など、重要な事項について、外国人が理解できる言語で、対面またはテレビ電話等を利用して情報提供を実施しなければなりません。これを怠ると申請を受理されない可能性があります。
- 生活環境の整備と支援体制の準備
企業は、外国人が日本で生活を始めるための環境整備を支援する義務があります。
サポートすべきこと
- 住居確保の支援
適切な住居の確保に係る支援(賃貸借契約の保証人となること、社宅の提供など)や、銀行口座の開設、携帯電話の利用契約など生活に必要な契約に係る支援を行う体制を整えなければなりません。 - 支援体制の構築
支援責任者(役員または職員から選任)および活動を行う事業所ごとに1名以上の支援担当者(役員または職員から選任)を選任し、特定技能外国人が十分に理解できる言語で支援が実施できる体制(通訳人の確保を含む)を有している必要があります。
【第3の柱】継続的なコンプライアンス維持:届出と支援の記録管理
在留資格変更が許可された後も、企業には継続的な届出義務と記録保管義務が課されます。
- 入管庁への各種届出義務
特定技能所属機関は、特定技能雇用契約の内容の変更、契約の終了・締結、支援計画の変更、支援の実施状況などについて、事由発生日から14日以内に地方出入国在留管理局に届け出なければなりません。
サポートすべきこと
特に中小企業では、人事や経理担当者が多忙なことが想定されますが、契約内容や支援体制に変更があった場合、速やかに届出(持参、郵送、インターネットなど)を行う必要があります。
- 義務的支援の実行と記録管理
企業が自ら支援を実施する場合(または登録支援機関に全部委託しない場合)は、支援計画に基づき、義務的な支援を実行し、その状況を正確に記録することが求められます。
サポートすべきこと
- 生活オリエンテーションの実施
変更許可後、日本での生活ルール、法令上の届出(住居地の届出等)、医療機関、防災・防犯、労働基準法違反等を知ったときの対応方法などの法的保護に必要な情報提供を、理解できる言語で行います。 - 定期的な面談と通報義務
支援責任者または支援担当者は、外国人およびその監督者と定期的(3ヶ月に1回以上)に面談を実施し、労働基準法その他の法令違反などの問題発生を知ったときは、労働基準監督署その他の関係行政機関に通報しなければならないとされています。 - 文書の作成・保管
支援の実施状況に係る文書(事前ガイダンス確認書、相談記録書、定期面談報告書など)を詳細に作成し、特定技能雇用契約終了の日から1年以上、事業所に備えて置く必要があります。
サポートを怠った場合の企業リスク:重大な行政処分と罰則
特定技能制度は、外国人の保護を目的とした義務が多く、企業がこれらのサポートやコンプライアンスを怠った場合、深刻なリスクに直面します。
申請の不許可による採用計画の頓挫
在留資格変更申請が不許可となった場合、内定した外国人材は特定技能外国人として働くことができなくなり、採用計画が頓挫します。
【不許可の例】
- 在留状況の不良
「留学」からの変更で、学校の在籍状況(出席率など)が良好でない場合。 - 入管法上の不正行為
過去5年以内に出入国・労働法令違反を犯しているなど、企業側の適格性を欠く場合。 - 支援計画の不備
支援計画の作成や実施体制が不適切であると判断された場合。
不許可処分が下された場合、外国人には通知書が手交され、原則として、申請内容を出国準備のための「特定活動」への変更申請に変更する措置が取られます。外国人本人は日本を離れなければならず、企業は即戦力となる人材を失うことになります。
義務違反に伴う行政処分と罰則
特定技能所属機関が、雇用契約の確実な履行や外国人への支援を適切に実施しなかった場合、以下のような行政処分や罰則の対象となります。
指導、改善命令、登録取消
特定技能所属機関が、外国人への支援を適切に実施しないなど、法令上の義務を怠った場合、出入国在留管理庁から指導や改善命令を受けることがあります。
改善命令を受けた場合、企業は期限を定めて問題事項の改善に必要な措置を講じるよう命じられます。さらに、改善命令を受けた旨が公示されることとなり、企業の社会的信用が失われます。
法定の罰則(懲役・罰金)
改善命令に従わない場合や、重大かつ悪質な法令違反を犯した場合、罰則が適用されます。
- 改善命令に違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。
- 雇用契約や支援計画の変更、支援の実施状況などについて、期限(14日以内など)までに届出を怠ったり、虚偽の届出をした場合、10万円以下の過料の対象となります。
外国人受け入れ停止(欠格事由該当)
法令違反や支援義務の不履行を繰り返すなど、特定技能制度の基準に適合しないと判断された場合、企業は欠格事由に該当し、特定技能外国人を受け入れることができなくなります。
- 過去5年以内に出入国又は労働に関する法令に関し不正な行為を行った場合、または、1号特定技能外国人支援計画に基づく支援を怠った場合 などは、企業の適格性が問われます。
- 支援の義務的な文書(支援実施状況の文書など)を特定技能雇用契約終了日から1年以上備えて置くことを怠った場合も、登録支援機関の登録拒否事由または特定技能所属機関の基準不適合事由となります。
中小企業が取るべき戦略
中小企業や個人事業主が、国内にいる優秀な「留学」や「技能実習」の外国人材を「特定技能」として採用するためには、申請手続きを単なる事務作業と捉えず、企業としての法的・社会的な責務(コンプライアンスと支援の履行)を果たすという意識を持つことが成功の鍵となります。
特に、現場の即戦力として期待される特定技能1号の採用においては、支援計画(10項目)の策定と実施が必須です。この負担を軽減したい場合は、登録支援機関に支援の全部を委託するという選択肢も有効です。全部委託することで、企業側は「外国人を支援する体制がある」とみなされるため、管理業務が大幅に軽減されます。
いずれの選択肢を取るにしても、雇用契約の適合性、在留状況の確認、そして義務的支援の確実な実行と記録管理を徹底することが、在留資格変更手続きを成功させ、安定した外国人材の雇用を維持するための揺るがない土台となります。
まとめ
在留資格の変更手続きは、外国人のキャリアという「川の流れ」を、現在の「留学」や「技能実習」という水路から、新しい「特定技能」という水路へと切り替える作業に似ています
企業側が果たすべきサポート(雇用契約の適合性、支援計画の策定・実行)は、この新しい水路が安全で安定した流れを確保するための「水門の整備と水路の保守点検」にあたります。水門が整備され(基準を満たし)、水路が適切に管理されている(支援が実施・記録されている)と入管庁が確認して初めて、水門の切り替え(許可)が行われ、外国人は新しい活動(就労)を開始できるのです。整備を怠れば、流れは滞り(不許可)、最悪の場合は水路管理者(企業)が罰則を受けることになります。
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